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スタッフブログ 2024.04.17
大学生の、大学生によるリクルーティング
いつもスタッフブログをお読みいただき、ありがとうございます。
先日、学生時代の仲間による集まりがあり、母校の近くで会食があった。懐かしい光景が甦ったが、私が大学生の頃(40年近く前の話です)は、4月は学生サークルの「リクルーティング」で大忙しだった。
私がいたのは、大学の点訳ボランティアのサークルだった。このサークルの新歓活動が他のそれと違っていたのは、単純に同好の士や遊び相手を探しているだけではなく、労働力の確保という側面があったことである。
視覚障害学生が入学すると、授業に使うテキストは、それが文学書であれ、法律書であれ、外国語であれ、全て授業の進捗に先駆けて点字に直しておかなければならない(元から点字のテキストは存在しない)。日本語の点字は、構成がローマ字に似ていて、「読み」をそのまま表記していくルールであり、初心者でも1ヶ月もあれば習得できる。点訳ボランティアの学生は4年で引退してしまうので、新入生を勧誘して即席の「点訳者」を育てないと、マンパワーが足りずに視覚障害学生の学習に支障が出かねなかった。元々こういった分野に興味を持ってくれる学生は少数派だったので、新人を勧誘して定着させるにはそれなりの労力と神経を使ったのである。
このサークルは記録を紐解くと1966年に発足したらしい。私が代表だった時は既に20年経っていたことになる。その後も活動は続けられ、2009年に廃部となったそうだ。OBの私は廃部になった経緯をよく承知していないが、その10年ほど前に、大学が「アクセシビリティ・センター」という機関を学内に設けている。障害学生を受け入れる大学自身が責任をもってサポートできる体制ができたということだ。むしろこれがあるべき姿だろう。
リクルーティングに狂奔するどころか、サークル自体がなくなってしまったのは、OBとしては寂しい思いがする。それにしても当時歴史を閉じる決心をした学生はどんな気持ちだったろうか。大して人生経験もない学生が、40年以上続いた組織にピリオドを打つ決断をする。想像するだけで胸が締め付けられるような話である。
しかし新人勧誘に駆けずり回ったり、無報酬の仕事で毎週締切に追われたり、といったことをやらずに済むようになったのである。大学が責任を持って学習環境を保証してくれるようになったのは、サービスを受ける障害学生にとって何よりもありがたいことだろう。
世の中は少しずつ、でも確実に、良い方向に動いていくものだ。そう考えて自分の気持ちを整理することにした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。